30年以内に南海トラフ地震が発生する確率は80%、首都直下型地震の発生確率は70%──大阪、北海道とたて続けに大地震に見舞われた日本列島で、次なる未曾有の大災害への不安は高まるばかりだ。
しかし、震災時に人々の命を救うはずの病院の多くで、停電に伴う「全電源喪失」のリスクを抱えていることが明らかになった。
史上初となる全域停電、「ブラックアウト」を引き起こした、9月6日の北海道大地震。信号機が止まり、交通は大混乱。携帯電話の充電が切れ、情報収集手段が失われた人も続出した。
なかでも深刻な状態を迎えたのが、「病院」だった。地震発生直後から道内376病院が停電し、うち82病院で断水した。
非常用発電機は無事に作動し、患者の命に関わる事態は避けられたが、道内の病院に勤務する内科医は、「“大阪の悪夢”が頭をよぎった」と語る。
6月18日の大阪地震の際、吹田市の国立循環器病研究センターでは、停電で自動的に切り替わるはずの非常用発電機が作動しなかった。
「スタッフが発電機まで走って手動で切り換えたものの送電できず、結局、停電は約3時間続いた。診療は止まり、人工呼吸器など患者の生命に直結する機器は緊急用のバッテリーを使用してしのいだ」(全国紙記者)
もし停電が長引いていたら大惨事になりかねない事態だった。災害に詳しいジャーナリストの金賢氏が語る。
「その後の調査で、循環器病研究センターでは非常用発電機の点検を過去5年間行なっていなかったことが判明しました。この事態を受けて、厚労省は全国の病院に非常用発電機の動作点検を至急実施するよう通達を出しました」
2013年に公益法人日本臨床工学技士会が作成した『医療機器の停電対応マニュアル』によれば、緊急時に非常用発電機に何らかの負荷がかかった際、
〈オイル漏れ、冷却水漏れ、燃料漏れなどを起こす恐れもある〉
と警鐘を鳴らしており、災害を想定して非常用発電機に電圧の負荷をかけた上で試運転する「負荷運転」の点検の重要性を説いている。消防庁も1000平方メートル以上で不特定多数の人が出入りする施設に対して、年に一度、非常用発電機の負荷運転の実施を義務づけてきた。
そこで本誌・週刊ポストは消防庁に情報公開請求し、都内の主な大病院30施設(病床数上位30施設)の非常用発電機の点検表を入手。結果、30施設中、実に24施設で過去1年間に負荷運転点検を実施していないことが明らかになった。一部施設は負荷運転点検の不実施を認めた上でこう説明した。
〈入院棟の建設及び高圧配電設備の大型改修等で、発電機の高圧配電系統も工事していたことから、事故防止の観点より当面の間実施を見送っていた。
このたび平成30年6月に上記の工事が完成し、平成31年1月に擬似負荷運転(負荷運転機を連結し、実際の負荷に近い模擬的負荷をかけること)の実施を予定している〉(東京大学医学部附属病院)
〈当院では、病院運営への影響(全館停電等)や、発電機の騒音が近隣へ与える影響への懸念から負荷試験を実施していなかったが、近年の災害時における、非常用発電機の不具合発生の事例を考慮して、本年度から擬似負荷による負荷試験を年1回実施することとした。なお、本年度の負荷試験は9月末に実施する〉(都立松沢病院)
首都圏で大地震が発生し、ブラックアウトが起きた場合、患者にとっても医師にとっても想定外の事態が待っているだけに、早期の点検が急務だ。
※週刊ポスト2018年10月5日号